このページではJavaScriptを使用しております。

トピックス

ブログ

院内感染リスクを抑える動線・換気・ゾーニング設計の考え方

はじめに――感染対策は“建築 × 運用”の総合戦

パンデミックを経て、院内感染は医療機関の信用と経営を直撃するリスクとして再認識されました。

空間設計の不備や運用ルールの不足がクラスターの温床となれば、一時休診や風評被害による減収は避けられません。いま求められるのは、建築的ハード(レイアウト・空調・素材など)と運用プロセス(動線管理・ゾーニング・清掃手順など)を一体で最適化することです。

本記事では、厚生労働省「医療施設の感染対策ガイドライン」やWHO/CDCの推奨を踏まえつつ、改修・増築プロジェクトで押さえるべき7つの視点を解説します。

 

 

 

1.基本の3原則――隔離・非交差・換気を徹底する

感染対策は下記の3つの主要な柱を同時並行で強化すると効果が最大化されます(「非交差」は WHO/CDC の公式分類ではないものの、動線管理の実務上きわめて重要とされています)。

 

1.隔離:感染症患者を他の患者・スタッフから物理的に分離し、治療区域内に閉じ込めること。

2.非交差:人や物品の動線が交差しないよう設計し、病原体の水平伝播を防ぐこと。

3.換気:室内の浮遊ウイルスやエアロゾルを希釈・排出し、空気感染リスクを下げること。

 

これらはWHOが示す原則とも合致しており、どれか一つに偏ると効果は限定的です。ハード(隔離室の数・位置)とソフト(搬送ルール)の両面を組み合わせることで、投資対効果を高められます。

 

 

 

2.動線設計――交差を防ぐ患者・スタッフ・物品の流れ

「交差リスク」を減らす第一歩はワンウェイ動線(単方向流れ)の導入です。

患者搬送は受付診察→検査→会計へと一筆書きで進み、来院から退院まで同じエリアに戻らないルートを確保します。また、スタッフ動線と物品搬送動線をバッファゾーンで緩衝し、清潔物と汚染物がすれ違うポイントをなくします。

 

設計時のチェックリスト(抜粋):

・搬送用リフト・EVを清潔/汚染用で分けられるか。

・スタッフ更衣室が汚染区域を経由せず勤務エリアへ直行できるか。

・リネン庫や医療廃棄物ストレージが共用通路に面していないか。

 

これらをフロア図にマッピングし、交差点数を“ゼロ”に近づけるほど水平感染のリスクは大幅に低減すると考えられます。

 

 

 

3.ゾーニング――清潔・準清潔・汚染区域の視覚化

ゾーニングは視覚的な境界設定が要です。たとえばフロアを「清潔(白)」「準清潔(黄)」「汚染(赤)」で色分けし、誰が見ても瞬時にリスクレベルを判別できるようにします。

 

サイン計画のポイント:

1.二重表示:日本語とピクトグラムを併記し直感的理解を促進。

2.連続性:区画の端だけでなく動線上に連続配置し“表示の抜け”を防止。

3.メンテナンス性:貼り替えやすい素材を選び、運用変更に追随。

 

結果として、ヒューマンエラーの発生を抑制できると報告されていますが、効果の大きさは教育体制や運用状況によって変動します。

 

 

 

4.換気・空調システム設計のポイント

空調は“見えないバリア”を構築する装置です。陽圧室(室内気圧を周囲より高く保つ)で手術室やICUを守り、陰圧室(室内気圧を低く保つ)で感染症病室から病原体を漏出させない――この正反対の制御ロジックが院内空気の安全網となります。

 

設計チェックポイント:

・給気経路:外気取り入れ口が汚染源(排気口・駐車場など)から十分離れているか。

・排気経路:院外の人通りが多い場所に排気を放出していないか。

・フィルタ交換:HEPA相当のろ材を採用し、工具レスで交換できる仕様が推奨されます。

 

適切な換気回数と気流制御は浮遊ウイルス濃度を継続的に希釈し、「空間感染」を実質的に制御下に置きます。

 

 

 

5.改修時に注意すべき既存建物の制約

リニューアル案件では、理想論より物理制約が優先されます。代表的なボトルネックを挙げると

・天井高さ不足:HEPAユニットやダクト増設スペースが取れない。

・ダクトルート混雑:既存配管で経路が塞がり、新設ルートが迂回。

・電源容量不足:陰陽圧制御ファンの起動電流が既存幹線を超過。

・耐荷重不足:空調ユニット載荷で梁補強が必要。

 

プロジェクト初期に構造・設備図と現地調査を突き合わせ、「出来ないこと」を洗い出すことが計画遅延を防ぐ最短ルートです。チェックリスト形式で優先順位を付け、迂回策(小型ユニット採用、天井レベル変更など)を同時に検討しましょう。

 

 

 

 

6.チーム連携――感染対策委員会と設計者の協働

感染対策は医療行為と密接に関わるため、院内感染対策委員会(IPC)と設計チームの早期連携が欠かせません。

 

推奨プロセス:

1.キックオフワークショップ:現行オペレーションとリスク箇所をマッピング。

2.バリアフリーワークスルー:設計途中でIPCメンバーが図面上を“歩き”、交差を疑似体験。

3.定例会:設計フェーズごとに課題レビューと次工程の合意形成。

 

“ユーザー=医療スタッフ”の知見を取り込みながら、図面と運用マニュアルを並行で仕上げると移行時の混乱を最小化できます。

 

 

 

7.まとめ――建築から始める持続的な感染制御

本記事では①隔離・非交差・換気の3原則、②動線・ゾーニング・空調・既存制約・チーム連携という7視点で改修計画のポイントを紹介しました。

重要なのは「正解は施設ごとに異なる」という前提です。限られたリソースの中で効果の高い対策を優先順位付けし、建築と運用のPDCAを回すことで持続的な感染制御が実現します。

 

 

 

セミナー(無料)のご案内

現在、当社では無料セミナーを企画中です。

詳細はお問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。

ご参加を心よりお待ちしております!