病院・介護施設における“改修しやすい建築”とは?
病院や介護施設の建築は、完成した時点で役割を終えるものではありません。医療制度や介護制度の改定、感染症対策の強化、利用者像の変化、人材確保をめぐる環境の変化など、施設を取り巻く条件は年々変わっていきます。そのため、長期的な運営を見据えると「建てたあと、どのように使い続けられるか」という視点が欠かせません。
近年では、改修や増築を繰り返しながら施設機能を更新していくケースが一般的になりつつあります。こうした背景から注目されているのが、将来の変更を前提とした「改修しやすい建築」という考え方です。
本記事では、病院・介護施設において改修しやすさがなぜ重要なのか、そしてそのために設計段階でどのような配慮が求められるのかを整理します。
1.なぜ「改修しやすさ」が重要になるのか

医療・介護施設は、一般的な商業施設や住宅と比べても、運営環境の変化が大きい建築分野だといえます。診療報酬・介護報酬の改定によって必要とされる機能が変わったり、感染症対策として動線やゾーニングの見直しが求められたりすることもあります。
また、高齢化の進行や地域医療構想の影響により、病床構成やサービス内容を見直す必要が生じるケースも少なくありません。このような変化に対して、建物が柔軟に対応できない場合、大規模で高額な改修工事が必要になったり、運営を長期間止めざるを得なくなったりする可能性があります。
そのため、計画段階から「将来、手を入れることになるかもしれない」という前提で建築を考えておくことが、結果的に施設経営の安定につながると考えられます。
2.改修しやすい建築の基本思想
改修しやすい建築を考えるうえで重要なのは、将来の使い方を細かく予測しすぎないことです。医療・介護の現場は変化が早く、数十年先の運営形態を正確に想定することは現実的ではありません。
そこで求められるのが、「何が起きても対応できる余白を残す」という設計思想です。間取りや設備を過度に固定化せず、変更や追加がしやすい構成としておくことで、将来の選択肢を広げることができます。
また、建築計画と運営計画をできるだけ切り離し、「今の運営に最適化しすぎない」ことも重要です。現在の業務効率だけを追求した結果、数年後には使いづらい建物になってしまうケースも少なくありません。中長期視点での柔軟性を持たせることが、改修しやすい建築の基本といえるでしょう。
3.構造計画で差がつく「変更耐性」
建物の構造計画は、将来の改修のしやすさに大きく影響します。柱の配置やスパンの取り方は、間取り変更の自由度に関わる要素の一つとされています。例えば、柱間が比較的広く確保されている場合、内部の間仕切り変更が行いやすくなる傾向があります。
一方で、耐力壁の位置や量によっては、改修時に制約条件となることもあります。そのため、構造安全性を確保しつつ、将来的な変更を想定した配置計画が重要になります。
木造、RC造、S造といった構造形式についても、それぞれに特性があります。どの構造が改修に適しているかは一概には言えず、敷地条件や規模、用途、コストなどを踏まえた総合的な判断が必要とされます。構造計画の段階で「将来どこまで手を入れる可能性があるか」を共有しておくことが、後々の改修計画に役立ちます。
4.設備計画が将来改修の難易度を決める

改修のしやすさを左右する要素として、設備計画も見逃せません。建築躯体の寿命と比べて、設備機器の更新周期は比較的短く、運営期間中に何度も更新が必要になるのが一般的です。
そのため、配管・配線スペースやEPS・PSの配置、天井懐の確保などを適切に計画しておくことが重要とされています。設備更新のたびに大規模な解体が必要になる建物では、改修コストや工期が膨らみやすくなります。
医療・介護施設では、将来的に設備が追加される可能性も高いため、余裕を持った計画とすることで、柔軟な対応がしやすくなります。設備計画は目に見えにくい部分ではありますが、改修の難易度を大きく左右する重要なポイントです。
5.平面計画における「用途転用」のしやすさ

将来の改修を考えるうえでは、平面計画の柔軟性も重要です。病室や居室の形状・寸法によっては、用途転用が比較的行いやすいケースがあります。例えば、将来的に機能変更が想定される空間については、過度に特殊化しない計画とすることで、転用の可能性が広がります。
共用部についても同様に、将来的な再編や機能追加を想定した余地を確保しておくことで、運営の変化に対応しやすくなります。ユニットケア施設においても、ユニットの再構成や機能変更を想定した計画が、長期的な運営に寄与すると考えられます。
6.改修を前提にした設計がもたらす運営メリット
改修を前提とした設計は、建築面だけでなく運営面にもメリットをもたらします。大規模な全面改修を避け、段階的な工事で対応できる可能性が高まることで、工事中の運営への影響を抑えやすくなります。
また、計画的な改修が可能になることで、修繕・更新コストを長期的に平準化しやすくなる点もメリットの一つです。突発的な工事や想定外の出費を減らすことは、施設経営の安定にもつながります。
7.改修しやすい建築を実現するための発注・意思決定
改修しやすい建築を実現するためには、設計段階での意思決定が重要です。将来の運営方針や変化の可能性について、発注者・設計者・運営側が早い段階で共有しておくことが求められます。
初期コストとのバランスを取りながら、どこに余白を持たせるかを整理することが、結果的に無理のない改修につながります。設計条件として「将来変更を想定している」ことを明確に伝えることが、改修しやすい建築への第一歩といえるでしょう。
8.まとめ
病院・介護施設における改修しやすい建築とは、将来の変化を前提にした柔軟性を備えた建築だといえます。すべてを予測することはできなくても、変更できる余地を残しておくことで、施設の価値を長期にわたって維持しやすくなります。
「将来改修できること」は、設計品質の一部であり、安定した運営を支える重要な要素です。これからの病院・介護施設づくりにおいて、改修しやすさを意識した設計の重要性は、ますます高まっていくと考えられます。
