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入居者のQOLを高める介護施設設計——菜園・廊下・共用空間の多様な工夫

近年の医療・介護施設は、単なる「治療や介護の場」から「暮らしの場」へと大きく変化しています。入居者の生活を支え、心身の健康を維持するためには、日常的に安心して過ごせるだけでなく、生きがいを感じられる環境設計が欠かせません。特養や老人ホームでは、施設そのものが「生活の舞台」となるため、設計における工夫はそのまま入居者のQOL(Quality of Life)に直結します。本記事では、具体的な事例や工夫を交えながら、入居者の暮らしを豊かにする施設設計のポイントを解説します。

 

 

 

1.QOL向上を目指す設計の考え方

介護施設の役割は、医療的なケアを提供するだけでなく、「生活の場」として心地よさを実現することにあります。ユニットケアの普及や全室個室化は、入居者の尊厳を守るうえで大きな意味を持ちます。個室にはトイレを設置し、自宅に近い環境を再現することで、日常生活の安心感を提供します。

さらに、入居者同士が自然に交流できるよう、小規模ユニットごとにリビングやダイニングを配置する動きも進んでいます。従来の大規模集団生活に比べ、落ち着いた雰囲気の中で人とのつながりを築けるため、精神的安定につながります。こうした設計思想は「生活の場」としての施設づくりを根底から支えています。

 

 

 

2.自然と触れ合う工夫——屋上菜園・中庭

自然は心身の健康を支える大切な要素です。

都志デザインが設計したとある特別養護老人ホームには屋上菜園があり、きゅうりやトマトなどの野菜を育てながら、入居者が四季の移ろいを肌で感じられるようにしました。

植物の世話や収穫を通じて「役割」を持つことは、生きがいの形成や生活リズムの維持につながります。収穫物を食事に取り入れれば、日常に喜びと達成感を与えてくれるでしょう。

 

また、浴室からは中庭を眺めることができ、この季節感あふれる景色は、入居者にとって気分転換や癒しをもたらし、心理的な安定に寄与します。

植物や自然と触れ合える空間を設けることは、認知症予防やストレス軽減にも効果的とされています。

 

 

 

3.機能性を持たせた空間——回遊性廊下・畳コーナー

施設の廊下は単なる通路ではなく、リハビリの場として活用できます。回遊性を持たせることで、入居者が歩行訓練を日常の中で自然に行えるようになります。行き止まりがない設計は「歩きたい」という意欲を引き出し、体力維持に役立ちます。さらに、照明や床材に工夫を凝らすことで、転倒防止や安全性も確保できます。

また、歩行の途中に設けられた畳コーナーは、入居者が安心して休憩できる場所です。和の雰囲気は心理的な落ち着きをもたらし、活動への意欲を維持します。こうした工夫により、リハビリ時間を「特別な時間」ではなく「日常生活そのもの」へと変えることができるのです。

 

 

 

4.交流と安心を育む共用空間

共用空間は入居者の社会的つながりを支える重要な場です。リビングやダイニングは明るい光を取り込み、床暖房を備えるなど快適性を重視して設計されます。食事や団らんを通じて自然に会話が生まれ、入居者同士の交流が活発になります。

さらに、多目的に利用できる地域交流スペースは、外部とのつながりを生み出します。地域住民を招いたイベントやボランティア活動、レクリエーションなどに活用され、入居者が社会の一員として関わりを持ち続けることができます。家族の面会時にも活用でき、安心感と居心地の良さを演出します。

 

 

 

5.職員や家族にとってのメリット

施設設計は入居者だけでなく、職員や家族の視点も大切にしています。スタッフステーションを効率的に配置することで、少ない動線で複数のユニットを見守れるようになり、ケアの質と効率を高めます。動線設計の工夫は、職員の身体的負担を軽減し、より質の高い介護に集中できる環境をつくります。

また、快適な共用空間は家族にとってもメリットがあります。面会時に長時間滞在できる環境が整えば、入居者と家族が心ゆくまで時間を共有できます。結果として、入居者の安心感や幸福感を高めることにもつながります。施設全体の雰囲気が良ければ、家族も安心して任せられると感じられるでしょう。

 

 

 

6.まとめ

屋上菜園や回遊性廊下といった工夫は象徴的な事例ですが、それだけではありません。自然を感じる中庭、和の趣を持つ畳コーナー、地域とつながる共用スペース、効率的な動線計画など、多様な要素が有機的に組み合わさることで、入居者の暮らしはより豊かになります。

介護施設は「生きる場」であり、入居者が「ここで暮らせて良かった」と実感できる空間でなければなりません。そのためには、設計段階から入居者のQOL向上を第一に考え、生活に潤いと安心を与える仕組みを積極的に取り入れることが求められます。未来の介護施設設計は、単なる建物ではなく「人生を支える器」としての役割を果たしていくのです。

 

都志デザインでは、病院や介護施設の建設・増築についての無料セミナーを定期的に開催しております。

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