個室・ユニットケアが介護施設を変える——プライバシーと感染症対策の両立
高齢者施設の設計は、これまでの「集団処遇型」から「個別ケア型」へと大きく転換しています。従来の多床室では入居者同士のプライバシーが守られにくく、生活リズムの違いや人間関係のストレスが生じやすいという課題がありました。
そこで注目されているのが、入居者一人ひとりの生活を尊重し、家庭的な環境を再現する「ユニットケア」です。個室化・ユニットケアはプライバシーの確保だけでなく、感染症対策としても効果的です。
本記事では、都志デザインが実践してきた事例を通じて、その意義と設計上のポイントを解説します。
1.ユニットケアとは何か
ユニットケアとは、特別養護老人ホームを中心に広がる「小規模生活単位型」の介護方式です。おおむね10人前後を1ユニットとして構成し、家庭的で落ち着いた雰囲気の中で入居者が生活を送れるように設計されています。
スタッフは小規模な単位の中で一人ひとりの生活に寄り添い、介護というよりも“暮らしの支援者”として関わります。これにより、入居者は自宅にいるような安心感を得ながら、生活リズムを自分のペースで保つことができます。
ユニットケアが介護施設の新しいスタンダードになりつつあり、都志デザインでも「集団型のケアから個人の自立を尊重したケアへの転換」を重視しています。
2.個室化の進展と背景
ユニットケアの核となるのが「個室化」です。かつての特養では6床室や4床室が一般的でしたが、近年は国の整備方針により「全室個室・ユニットケア型」への移行が推進されています。
個室化が進む背景には、入居者の尊厳とプライバシーの確保、そして感染症への備えがあります。特にインフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症対策の観点からも、居室の独立性を高めることが有効とされています。また、個室は家族が面会しやすい環境づくりにもつながり、入居者の精神的な安定や社会的つながりの維持にも寄与します。
つまり個室化は、単なる間取りの変化ではなく「生活の質(QOL)」そのものを支える基盤といえるのです。
3.個室・ユニットケアの5つの効果
個室化とユニットケアの導入には、入居者・職員双方にとって多くの効果があります。
第一に、入居者の個性とプライバシーが尊重され、安心して生活できる環境が整います。
第二に、少人数単位での暮らしによって人間関係のストレスが軽減され、穏やかなコミュニティが形成されます。
第三に、家庭的な空間構成により家族が訪問しやすく、自然な交流が生まれます。
第四に、個室の仕切りが感染症拡大を防ぐバリアとなり、施設全体のリスクを抑えることができます。
そして第五に、スタッフのケア動線が合理化され、効率的で安全な介護が可能になります。これらの効果が相乗的に働くことで、介護施設は「管理の場」から「生活の場」へと変化していくのです。
4.設計のポイント
ユニットケアを実現するためには、設計段階から生活動線とケア動線の両立を意識することが重要です。都志デザインでは、「各ユニットにリビング・ダイニング・浴室を設ける」「個室にはトイレを設置する」「回遊型レイアウトで動線を分散させる」「スタッフが見守りやすいオープンステーション設計」など、具体的な設計ポイントをおさえています。
これにより、入居者は居室から短い動線で共用空間にアクセスでき、スタッフは視認性の高い環境で安全に見守ることができます。また、将来的な増築や設備更新にも柔軟に対応できる構成とすることが、長期的な施設運営において重要です。
都志デザインは、こうした設計思想をもとに「使いやすく、温かみのある介護空間」を数多く実現してきました。
5.都志デザインの事例にみる工夫
都志デザインが設計を手がけた施設では、ユニットケアの理念が建築の細部にまで反映されています。とある施設では、20床を2ユニットに分け、各ユニットごとにリビング・ダイニングを設けることで、入居者が自宅のような空気感の中で過ごせるよう工夫されています。各居室にはトイレを設け、プライバシーと自立支援の両立を実現。さらにスタッフステーションを中央に配置することで、見守りとケアの効率を両立しています。こうした設計は、「介護される場」ではなく「自分らしく暮らす場」としての介護施設を形づくるうえなくてはならない工夫なのです。
6.まとめ
個室・ユニットケアは、単なる施設レイアウトの変更ではなく、入居者の尊厳と快適さを守るための思想的転換です。プライバシーの確保、感染症対策、家族との交流促進、職員の働きやすさのすべてが有機的に結びついてこそ、真の「生活の場」としての介護施設が実現します。今後は、こうした設計思想がさらに広まり、高齢者が安心して自分らしく暮らせる空間づくりが進んでいくことが期待されます。
都志デザインでは、病院や介護施設の建設・増築についての無料セミナーを定期的に開催しております。
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